インディーゲーム開発の現状と未来 2021
日本のインディー開発にまつわる環境が大発展
私が2016年にインディーゲーム開発について登壇させていただいたころと比較して、日本におけるインディー開発を支援するプログラムやコンテストは飛躍的に増加しました。
たとえば、次のようなインキュベーションプログラム、コンテスト、コミュニティがあります。
iGi Indie Game Incubator | https://igi.dev/ |
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Google Indie Games Festival | https://events.withgoogle.com/indie-games-festival-2021-japan/ |
Asobu | https://asobu.dev/ |
INDIE Live Expo | https://indie.live-expo.games/ |
集英社ゲームクリエイターズCAMP | https://game-creators.camp/ |
講談社ゲームクリエイターズラボ | https://daysneo.com/info/gclab.html |
日本には80年代から個人・小規模のゲーム開発文化があり、即売会を通じたコミュニティの盛り上がりを経て発展してきました。そこに新しい要素としてインディーゲームが加わったのが2010年中盤からでしたが、今日においては両者が溶け合いつつ、若手や新参の開発者が新たな層を形成しつつあります。これからまだまだ、日本から面白いインディーゲームが沢山現れます。
振り返り:「Back in 1995」でやってきたこと
さて、私がかつてリリースしたタイトル「Back in 1995」の振り返りをします。本作は2016年4月に発売したアドベンチャーゲームです。PS1風の「レトロポリゴン」というジャンルに切り込んだ作品で、発表当時は新しいものとして受け入れられました。
ところが、Steamの初週販売数は348本とかなり厳しい数字でした。原因としてはゲーム自体のボリューム不足やストーリーの難解さ、プロモーション計画が予定外の出来事で狂ったことなどがあったと思います。しかしそこで折れず、いろいろな手を尽くすことで2.3万本まで販売数を積み上げました。
「2.3万本」は、けっして大ヒットではありません。ただ、ほぼ個人に近い開発規模で、2年分の活動実績と考えると、それなりに生きていける売上になったと考えています。この数に至る前実際にやってきたことを紹介します。
無料アップデートによるステージ追加
Steamやフィードバックでは「ゲームプレイ時間が短い」というコメントが特に多かったため、ステージを追加する無料アップデートを配信しました。昨今のゲームにおいては、発売時の評価が厳しくても、その後のアップデートで改善するケースがまれにあります。
本作の場合はそこまで劇的な改善に至りませんでしたが、追加したステージは家庭用ゲーム機版では最初から入れていたので、その遊びごたえの改善にも繋がりました。
季節に合わせたセールの実施
サマーセール、ウィンターセール、旧正月セールなど、要所要所でセールを打ちました。いきなり大幅に値段を下げず、まずは20%オフから初めて徐々に割引幅を大きくしました。発売から5年経ったので、最近は60%オフなどの大型割引も行っています。
自分が丹精込めて作り上げたゲームを値引き販売することには気が引けるかもしれませんが、セールというものは、発売から時間がたったゲームに再び光を当てるための手段です。もちろん、やたらと値引きすることはよくないですが。ただし、セールを定期的に行う手法がすべてのタイトルに合っているかというとそうではありません。セールを全くしない、という売り方を選ぶ開発者も、もちろんいます。本作においては、パブリッシャーのDEGICA GAMESの協力により、複数タイトルをまとめたバンドルセールにも参加しました。
印象深かったのが、PS4版におけるテーマセールの参加です。「リマスター&レトロセール」への参加です。リマスターでもレトロゲームでもないのですが、お誘いを受けたので参加してみました。テーマセールは趣向の近い方が見てくれますので、ゲームを見つけてもらいやすいと思います。今後はチャリティーバンドル等にも参加してみたいです。
多機種展開
シンプルですが、さまざまなゲームハードで移植版をリリースしました。特に、自分で移植開発したNewニンテンドー3DS版は「下画面要素」という新しいギミックを加えることで、ゲームそのものの魅力向上をめざしました。パブリッシングはPlay,Doujin!に担当いただきました。
当初はSteam版とNewニンテンドー3DS版のみでプロジェクトを終え、新作にとりかかる予定でした。ところが、予想外のことが起きます。ゲームを気に入ってくれたアイルランドのファンが、「このゲームをNintendo Switchでも遊びたい!」とメッセージを送ってきたことをきっかけに、彼が移植を行う会社を紹介してくれたのです。それがRatalaika Gamesでした。ここから、他機種展開も決まり、PS Vita版においては限定パッケージ版の発売にもこぎつけました。ありがたいことです。
複数企業との連携
本作のパブリッシングや移植、翻訳にはさまざまな会社の協力を得ています。個人でできることの範囲は限らていますので、こうした企業との連携によって活動の幅を広げました。本作は複数の会社と連携しています。
- DEGICA GAMES:Steam版販売、英語翻訳
- Play,Doujin!:N3DS版、PS4版・Switch版日本販売
- Ratalaika Games:PS4/PS Vita/Switch/XboxOne移植開発、PS4/PSVita/Switch海外販売、XboxOne版販売、中国語・韓国語・FIGS翻訳、PS Vita版パッケージ販売
こうしたパブリッシャーや移植の会社と出会うために、積極的にゲームの展示イベントに出展し、商談をブッキングして自分の作品をプレゼンテーションしましょう。ゲームの販売においては、市場や得意分野などで都度パートナーを変え、その時々で最大のパフォーマンスができる形を自ら考えていくことが大切だと思います。
ただしその場合、翻訳費用は自分で出して、翻訳データの権利を自分で持っておいたほうが便利です。私はそれが少々ややこしくなってしまったためです。
新作「デモリッション ロボッツ K.K.」での挑戦
現在私は新作として『デモリッション ロボッツ K.K.』を開発中です。ゲームコンセプトは全く変わり、今回は4人対戦のロボットアクションゲームです。ロボ同士は戦わずに、ひたすらビルを破壊する…というゲームシステムです。このゲームにおいては、作風以外にも「Back in 1995」とは違ったチャレンジをしています。
チーム開発
「Back in 1995」では、キービジュアルとタイトルデザイン、一部の3Dモデルを二人のアーティストに依頼した以外は、私一人で開発しました。そこには、一人でやれる技術とアート、物量の限界がありました。
今回は、チーム開発に移行しています。まずプロトタイプをすべて個人+アセットストアのモデルデータで制作したあと、展示会でプレイフィールを確認しました。そこから手ごたえを得たのちに、アーティストや作曲家にさまざまな素材の制作依頼をしています。現在では本作に関わっているアーティストは6人います。
多人数での開発は大変ですが、チームでなければ成しえないメリットもたくさんあります。インディープロジェクトにおいては、一概にチームが良いとは言えませんが、表現の幅が広がる可能性は確かだと思っています。
開発の効率化
「Back in 1995」は制限の大きいプラットフォームでの発売もあったため、システム系のアセット導入は最低限でした。今作では逆に、そうしたアセットを積極的に採用をしています。例を挙げると次の通りです。
デバッグやサウンド機能など、ゲーム開発において必ず作る演出やシステムは、車輪の再発明をせずに、こうしたアセットを積極的に導入します。
「お金で時間を買う」という発想で開発を加速しています。
また、日々の開発で欠かせないのが「Unity Cloud Build」の積極利用です。最新ソースで様々なバリエーションのビルドを寝ている間に実行してくれるほか、外部に新しいゲームビルドを渡す際に役立てています。
インディーゲーム開発者は、自分以外の人にビルドを渡す場面がとても多いです。たとえばメディア宛てや、展示会やアワードの審査、デバッグ、パブリッシャーの評価用などがあります。Unity Cloud BuildはダウンロードURLを発行するシステムがあるため、新しいビルドをクラウドストレージなどにアップロードせず、すぐに渡すことができます。みなさんもぜひ活用しましょう。
動画配信を開発者が収益化4h>
昨今はゲームの動画配信が当たり前の文化になりました。インフルエンサーによる配信でゲームの知名度が上がる効果については言わずもがなですが、残念ながらゲームを知ってもらったとしても、購入につながらないケースは多いと感じています。
そこで本作では、ミドルウェア「Genvid」によるインタラクティブな動画配信システムを採用し、動画配信の行為自体を開発者が収益化する手法に挑戦しています。配信動画の視聴者に特別なUIをブラウザ上で合成し、触れる動画配信を作ります。
これについては、昨年開催された「Unite Now 2020」に私が登壇したときの動画をご覧ください(私の英語は超下手くそなので、お聞き苦しいですが…。)。もしかすると、インディーを含めた様々なゲーム開発者にとってあらたな表現となるかもしれません。
インディーとして生きていくために
数年前から「インディーポカリプス」という言葉によって、世の中にリリースされるゲームが多すぎる問題は指摘されていました。2020年のSteam年間リリース数は、10,263タイトルです!
その中でみなさんは、プレイヤーに自分のゲームを見つけてもらい、興味を持ってもらうために「サバイバル」しなくてはなりません。ゲームの売上を伸ばすためには、マーケティングやコミュニティマネジメントなど、ゲーム開発以外の面倒なやらなくてはならないことは大量にあります。
その上、これからのインディーには、ゲームそのものの面白さに加えて、別軸の強みを持ったクリエイターがたくさん参入してきます。著名クリエイター、芸能人、天から二物も三物も与えられたクリエイターなどが「インディー」にやってきます。作品の力1本でどうやって強いクリエイターに立ち向かっていくかを考えておかなくてはなりません。
「インディーが開発以外にやらなければならないこと」について紹介すると5万字を超えるので、本にしました。ゲーム開発プロジェクトにおけるゲームデザイン以外のやるべきことをまとめた本「インディーゲーム サバイバルガイド」を執筆中です。
日本のインディーをめぐる環境は、良い変化も起きます。今後は、日本でもインディーゲーム開発者向けにサービスを提供する企業が増えていくと考えています。パブリッシャー以外にも、移植専門の会社、インフルエンサーマーケティング、デバッグや制作支援などさまざまな業態がインディー向けのプランを提供するようになるでしょう。そして、世の中でインディーゲーム開発者の認知度が増えるにつれ、個人開発者の数の増加とともに、チームでゲームを制作して成功するケースも増えていくでしょう。
注目されると、あぶない人も増える
悲しいことに、注目が集まる分野にはあぶない人も寄ってくるのが世の常です。インディーゲームにまつわる発信者のうち、言葉が強く喧嘩腰な人物を見たら要注意です。話を鵜呑みにする前に名前やアカウント名で検索して、過去に問題を起こしていないか調べてから妥当性を判断しましょう。SNSや動画などのWebコンテンツは、過激な内容でわざと注目を集めることがお金になってしまう側面があります。ミュート機能などを使って、有害な発信者から身を守る行動を取りましょう。
Webの信頼すべき情報源は、言わずもがなUnity公式です。このUnity Learning Materials をはじめとして、YouTubeでは公式セミナーの配信チャンネル「Unityステーション」が配信されています。こうした公式ソースを起点に、確かなノウハウを身につけるようにしましょう。
大切なこと:ゲーム開発は自由
個人や小規模チームでゲームを作っている開発者は、そのほとんどが事業的な成功を目指しているわけではありません。あくまで趣味として、開発そのものや交流を目的としている方が層が厚く、自分たちのやりたいことを第一としてゲーム作りを楽しんでいます。ゲーム開発をどのように行うかは、みなさんの自由であり、外野がとやかく言うものではありません。ただ、その大きな集団の中でも「ゲーム開発で食べていきたい」と考える人ももちろんいます。そのような、自主的にゲームで生計を立てていきたいと考えている人へ向けて、なるべく情報を提供したいと考えています。
もちろん、事業的な成功が偉いことだとは思いませんし、たくさん売れることが正義だとは考えていません。開発者に対してやり方を強要してはならないのです。インディーゲーム開発者に関係のある事業に携わる皆様も、ぜひ念頭においてもらえればと思っています。